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「なんかさ、すっかり小劇場の人になったよね」

2月の公演の時、ロビーにあいさつに出た共演者の顔ぶれを見渡しながら、20年来の友人が私に言った。

芝居の質が変わってきたとかそういうことかな、ひょっとするとめずらしく褒められてんのかな、と期待するも

「だってさ、あの人ともこの人とも共演してるんでしょ、それで今度はあの人とまで。すっかり顔が広くなっちゃって」
知り合いが増えたね、と単にそういう意味らしい。

「コミュ障だって芝居はできるんだもん!」をよすがにやってきたわたくしもいよいよ四十路を迎え、どんな仕事でもモノを言うのは結局交友関係なんだということをいい加減認めざるを得ない今日この頃だ。
私個人の功績ではまったくないので釈然としないが、まあお褒めいただいたのだと捉えておこうと思った。

そんなコミュ障で出不精だけどめっきり知り合いが増えた(当社比)わたくしが久々に観た芝居は、出演者(声の出演も含む)のおよそ半数がお知り合いであった。


ナイスストーカーには以前から興味があった。
主宰のイトウさんは女子が好きで好きでしょうがなくって、好みの女子を集めて一大ハーレムを作るべく、旗揚げメンバーだった古巣の劇団を飛び出してナイスストーカーを立ち上げた変態さんである。

その変態性と、IT関連の知識を存分に発揮した奇抜な企画力が融合した他にはない個性的な劇団(?)だということで、しばしば話題になっていたのだ。

ちょっと前にはヤンデレなヒロインとの恋愛シミュレーションゲームアプリを開発し、驚異のダウンロード数をたたき出していた。選択を誤るともれなくヒロインに刺されて死ぬという身も蓋もない内容だがセリフがいちいち秀逸だった。

イトウさんの女子に対するキャパシティの大きさはハンパない、と実感したのは数ヶ月前。

上記の2月の公演で私は二つの役柄を演じたのだが、そのどちらもなかなか性格のきっつい、年増の女の役だった。終演後のロビーで弟の彼女(初対面)が内心どん引きしてたのを私は見逃さなかった。
その役を評してイトウさんは一言「かわいかったですよ」と言ったのであった。
「いや、かわいかったです」と繰り返して言っていた。決してお愛想ではないのがわかった。なぜか哲学的な目つきをしていた。こちらの中途半端な照れなど許さない絶対的な感じがあって、危うく屈服しかけた。

男なら誰でも一度くらいはハーレムを夢見たことがあるのではなかろうか。でも大体は夢に終わって実現できる人はいないし、実現しようと実際に動く人もいない。
ああでも、この人ならできるのかもしれない。なんならその一員になってもいい、ならせて下さい、そう思いかけた。あの目はやばい。直視したら石になる。

さあさあ、レビューブログのくせに相変わらずの長い長い前置き。
このあと誰が読んでくれるんだろう。でもめげずに書きます。


怖いもの見たさが石化への恐怖を凌駕して、いそいそと足を運んだpit北/区域。
正装のイトウさんが場内整理をしていた。
とても
「稽古場でも本番の衣裳で」と稽古から水着の着用を強要したり、
「AVじゃないんだから、もっとホントの声出して」と女優にダメ出ししたり(以上公式サイト参照)
そんなティーンズラブコミックのS系男子も真っ青な所業をするとは思えないたおやかな物腰。変態紳士の異名に納得。


ハーレムの夢は、今回ひとりの男優に託されていた。
(若干ネタバレだが、イトウさん自身のハーレムシーンも後半にちゃっかり用意されてあった)

イグロヒデアキ氏はバンザイ合唱団というゆるふわ系お遊戯ミュージカル集団の古参メンバーで、私も新参メンバーとして数回参加させてもらった縁でお知り合いになった。

見た目並、社会人レベル並以下、女心の機微などてんで解らないのになんだかモテるという、エロゲ(やったことないけど)の主人公のような設定の役が、イグロくんにぴったりだった。
女子たちのラブラブアプローチには全く気付かないのに、軽妙なテンポで繰り広げられる会話の中でのツッコミはセリフも間も的確。
無職なのに飄々としているところとか、なんかよくわかんないけど、まあ確かにこういう男をほっとけない女子っているよねと思わせるリアリティがあった。


そんな主人公イグロと、裏ハーレム主イトウを取り巻く女子たちがみんな、個性豊か。
一本気過ぎてしょっちゅう過呼吸になってる女子、ネジ飛んでるくせにちゃっかり持ってく女子、本命のようだがいまいち決め手のない女子、西洋の絵本から飛び出してきたような子リス系女子、欲得にしれっと流される年増女子など。

どの女子も、単なるモテ男のためのパーツではなく心理がしっかり書き込まれていて(多分演出も執拗にしていて)、作り手のイトウさんがどの女子にも手を抜かずに愛を注いでいるのがわかる。ほんとに変態だなあ。これだけどんな女子も愛せてしまったら一人に絞るとかできないんじゃないかなあ。と余計な心配をしてしまうほどだ。

役の設定もさることながら、それを演じる女優たちがみんなかわいらしかった。
きゃいきゃいと騒いだり文句言ったりしながらも最終的にはイトウさんの凌辱的演出に殉じている様は想像するとなかなかそそる。


おすぎさんこと杉村こずえさんは今回唯一男性役もこなすジェンダーフリーな女優さんで、小劇場デビューして間もなく一度共演させてもらった時も、その演技の笠智衆並みの抜け加減には舌を巻いたものだが、相変わらず抜けまくっていた。いろんな舞台に引っ張りだこなのも納得だ。


引っ張りだこといえば、イトウさんの右腕で看板女優格のおびーこと帯金ゆかりさんもとっても良かった。
初めて共演したのがついこないだ、例の2月の公演なのだが、慣れない時代モノに頭から突っ込むようにして果敢に飛びこみ、最後には時代を越えた愛されキャラを見事に作り上げていた。
全力さと、謙虚さと、生理用品のような吸収力と、すらりとした体躯。どれも自分にはないものばかりでうらやましいやらなにやら。

今回同士イトウのもとで、のびのびと持ち前の魅力を発揮している様はとてもまぶしく見えた。
終演後はどうやら業界関係の方らしい男性を捕まえて
「イトウを!イトウシンタロウを!覚えておいてください!これから絶対伸びますから!!」
的なことを涙を流さんばかりに訴えている姿に、芝居本編以上の泣き笑い劇場を味わわせてもらった。
脳裏に「浪花恋しぐれ」が流れてきた。イトウさんもさぞかし冥利に尽きることだろうな。

イトウさんの素晴らしさを猛アピールしたおびーは振り返り
「すーみん(私のことです)太ったでしょ、7~8キロはいったね?」
とここ数ヶ月うすうす感づいていながら認めまいとしていた事実(でも7~8キロもいってない)を私に告げた。

おびーの演技を見て、すらりと無駄のない身体は表現者のあこがれダナーなんて思ってた直後の当の本人からの指摘に激しく動揺。妙齢の女の「太った」はすなわち「劣化した」を意味するのだ!

本番18日前というタイミング的にはイマイチな時期だけど、今日から本格ダイエット開始しました。
今お腹グーグーならしながらこのブログを書いています。くっそう帯金。今に見てろ。



微妙にネタバレを気にしてどうでもいいことばかり書いてしまったが、遅筆過ぎて気付けば千穐楽直前。
よかったらぜひ観に行ってくださいね!と宣伝に協力することもできなかった。

次回の公演は未定らしいが必ずやるらしい。
ナイスストーカーの今後がとても楽しみ。覚えて!覚えておいてくださいっ!!



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