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映画を映画館で、昼間から、しかも定価で観るという、普段ほとんどしないことの三段重ねをした。


かといって、この作品を選んだことにそれほどのこだわりはなかった。

この日は、夜に夫としゃぶしゃぶを食べに行くという一大イベントがすでに決定していたが昼間の予定が未定で、せっかくなら映画でもという話になったのだが、しゃぶしゃぶ合わせで時間を逆算していくとこの映画以外はアニメと、前作を観てない続編ものくらいしかスケジュールが合わなかったのである。

あ、『英国王のスピーチ』もあった。これは私としてはまんざらではなかったのだけど、夫に却下された。
洋画はアクションとかSFとかハデなやつじゃないとイヤ。字幕読むのしんどい。ということだそうでーす。はいはいわかりましたよ。


「お、これ唐沢くん出てるやつだろ?これにしようぜ」

夫は唐沢寿明のことを「唐沢くん」と呼ぶ。
無論知り合いでもなんでもない。

夫がどういった思いでそう呼ぶのかについてはよく知っているが、スペースがもったいないのでここには書きません。
ただでさえ底抜け脱線ブログの様相を呈しているのだから、無駄話は控えます。

私も唐沢くんのことはまんざらでもないので同意。
しゃぶしゃぶ合わせの唐沢合わせで、この日のスケジュールがめでたく決定したというわけであった。


春休みの昼下がり。ロビーは、いつぞやのホラーの夜と同じ空間とはとても思えない、こども天国だった。
駆け巡る子供たちにぶつからぬよう、子供たちがこぼしたポップコーンを踏まぬよう、慎重に歩を進め劇場に入ると

そこはシニア天国であった。

あのこども空間のどこに潜んでいたのだろうか。客席を占める選りすぐりのシニアたち。
あのポップコーンの床を、迷彩柄ならぬポップコーン柄の戦闘服を身にまとい、プリキュアのパンフレットをヘルメットに挟んで匍匐前進でここまでたどり着いたに違いない。


我々はーっ、夫婦50割引きまであと5年のーっ、シニア予備兵でありまーっす。
そのような若輩者が同席する失礼をーっ、お許しくださいっ。
と、(心の中で)敬礼。



「これは従来の戦争ものとは一線を画す、ヒューマンドラマである」

戦争を扱った作品の製作者が口を揃えて言うことのように思う。
そのうえでまた口を揃えて

「若い世代にこそみてほしい」
とも言う。

パンフレットを読む限り(私はほとんどしないが、夫は映画を観ると必ずパンフを買う)この映画もご多分にもれず、そういう意図があったらしい。


正直、このテのコメントには前々から違和感があった。
狙いから大きくずれた客層で埋められた客席でその違和感を抱えたまま観賞した。


戦争時代の実在の人物を演じる、というプレッシャーの罠にはまり、結局抜け出せずじまいの主演俳優はやたらめったら目を潤ませ涙を流す。

女だてらに銃を手にすることもいとわないほどの敵への殺意を募らせることに夢中で、目つきが悪すぎてちっともかわいくないヒロイン。

古き良き日本の女を演じたかったのだろうか。茫洋としたセリフ回しとうつろな目に、かえってウラがあるように見えてしょうがなかった元・子役女優。

ストーリーと主役の人物像自体はとても興味深かっただけに違和感はますます募ったが、それをズバリ払拭してくれたのがそう!

唐沢くんなのであった。


彼の演じた堀内今朝松一等兵という役は、これまた実在の人物がモデルになっているらしいのだが、スキンヘッドに関西弁、胸元からは刺青をチラ見せさせたベタベタなキャラ設定は明らかに創作である。

周囲とのバランスはあまり良くなかったかもしれない。常に浮いていたように感じた。
なぜ浮いていたのか考えた。


戦争という史実、実在した人物、それを前にかしこまり、へりくだり、怖気づき、「こんなに悩みました迷いましたでも『自分なりに』一生懸命やりました」
そんな良く言えば「誠実さ」悪く言えば「言い訳」が溢れ返るスクリーンの中で、唐沢くんの演技ははあまりにもどキッパリしすぎていたのかもしれない。


パンフレット内でのコメント。

「ドキュメンタリーではないのだから、多少のエンタテインメイト性が必要だと感じた」

「大場大尉(主役)との対比は、見た目から作りこんだ」

「日本とアメリカの映画の作り方の違いをハッキリ感じられた。面白かった」

その他もろもろすべてがどキッパリ。うじうじのうの字も感じられない。


鼻持ちならないやつだなあ、と思いつつ、目が離せなくなる。
俳優の、ひとつの理想形だと思った。

あの、常に何かをたくらんでいるような目で
「ハリウッド?そんなの目指してないですよやだなあ」
とか言ってほしい。
ウソつけ!と突っ込んでみたい。



劇場を出た夫の第一声は

「相変わらずやるな唐沢ー」

であった。


呼び捨て。

無論、知り合いでも友達でもなんでもない。



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